診療内容

 本講座は、支援講座の神経内科のサポートのもと、密接な連携をとりあって、てんかん・運動異常の臨床を行っています。当院では他科との連携をとり、集学的な立場から、てんかんの治療、高度先進医療を実践しています。紹介患者は、難治例の手術適応の検査と治療、診断目的の紹介、最適な抗てんかん薬の選択についての紹介受診などの様々な目的に関して、近畿圏を始め幅広い地域からの紹介を受けています。

1)てんかん外来・関連他施設とのてんかん診療の病診連携の推進

 神経内科の外来にて、複数のてんかん専門医師によりてんかん・運動異常の専門外来診療を行っています。
 てんかんは元来小児期発症が多いと認識されていましたが、最近は、超高齢化社会にともない中高年で新たに発症するてんかんが問題となってきています。また、てんかん治療が可能な医療機関・医師の数が十分でなく、特に成人のてんかん患者に対して、神経内科、脳神経外科、精神科のいずれの診療科が担当しているか不明確な状況です。患者さんに適切な治療を提供するためには、欧米のように一般診療医から専門医につながる一貫したてんかん診療連携モデルの形成が重要となります。当院は、近畿地区の3次てんかん専門施設として、関連施設と病診連携を推進しながら、各科横断的に脳外科、小児科および精神科が一体となっての診療を行うことにより、それぞれの患者のてんかんに伴う問題に対して、集約的なアプローチによって解決するように努めています。
 平成26年度は1092名のてんかん関連患者の外来診療を行ってきました。京滋地区を中心に、近畿一円の病院・診療所から103名(平成26年4月~平成27年3月)の新規患者の紹介を受け、診断、治療方針決定を行っています。紹介患者は逆紹介まで行う病診連携も積極的に行っております。

2)入院でのてんかん病態の検査(長時間ビデオ脳波モニターなど)と治療

 京大病院では、1991年に神経内科病棟の1個室にビデオ監視記録が可能なカメラを設置して、さらに専用の脳波とビデオの同時記録装置を看護詰所に配置して、長時間ビデオ脳波モニタリングユニット(Epilepsy monitoring unit :EMU)を開設いたしました。現在、神経内科病棟にEMU が2床ありほぼ常時稼働しています。本検査を行い、発作をビデオと脳波で同時記録することにより、
 i)てんかんの診断:てんかん発作と他の運動異常症・非てんかん性発作との区別
 ii)てんかん焦点の正確な診断:難治例および外科治療の適応の検索
が可能となっています。院内および院外の脳神経外科、精神科、小児科からの紹介例を含めて、常時検査施行しています。平成26 年度(平成26年4月~平成27年3月)は、長時間ビデオ脳波モニターは35例(頭蓋内電極留置4例、てんかん外科術前評価症例14例、辺縁系脳炎評価6例、てんかん診断11例)を検査しました。
 このほか精査入院では、神経心理検査、各種核医学検査、脳磁図検査、3テスラMRI 検査を必要に応じて施行し、病態の診断・治療を行っています。ルーチン脳波検査は、平成26年度に1265件(神経内科からの依頼件数、外来906件含む)施行しています。

3)てんかん外科

 当院では、脳神経外科と神経内科との共同で、手術適応に関する検査を施行する診療協力体制ができており、1992年以降、190例を超えるてんかん外科手術を行い、てんかん発作の抑制・術後の生活の質の改善において、良好な成績を出してきました。長時間ビデオ脳波モニターを含む各種検査結果に、脳神経外科で行われる言語・記憶機能の同定のための和田テスト、研究検査である機能的MRIの検査結果もあわせて、てんかん専門の知識を有する複数の医師で詳細に検討をし、適切な手術治療方針の計画を立てています。てんかん焦点が上記検査で詳細に同定できない場合、切除予定部位が機能を有する脳の部位の場合などは、より慎重に手術行うために、手術を二回に分け、初回の手術で頭蓋骨の中に電極を埋め込み(硬膜下・深部脳電極留置)、その検査結果を元に二回目の手術で治療を行います(てんかん発作焦点切除)。また、必要に応じて手術中に麻酔から覚まして手術治療(覚醒下手術)も行っています。これらの検査手法は、てんかん外科以外に、脳腫瘍が機能野にある場合の術前評価にも広く施行されています。平成26年度は、頭蓋内電極留置によるてんかん発作焦点同定・焦点切除は4例、てんかん外科手術は14例、覚醒下手術は約60例(てんかん外科手術以外も含む) に施行しました。

4)各種脳機能診断方法

 京大病院は、三次診療を行うてんかん専門施設として下記の検査を行っています。また大学病院として、各診療科のサポートのもと特殊検査も行っています。

  • 脳波(神経内科、中央検査部)

てんかん発作焦点の検索に、ルーチン脳波検査(覚醒・睡眠)および長時間ビデオ脳波モニター(発作時脳波記録を含む)を施行しています。

  • 脳磁図(脳機能総合研究センター)

脳内磁場活動源の推定によりてんかん発作焦点検索を行っています。
また誘発脳磁計測による感覚・視覚・聴覚などの機能マッピングも施行しています。

  • 各種核医学検査(放射線診断科)
  • 下記によるてんかん焦点部位検索を行っています。

FDG-PET:神経細胞の糖代謝異常の検出
SPECT:局所脳血流の異常、神経細胞の各種受容体異常の検出
てんかん発作時SPECT 検査では、発作焦点の脳血流増加を計測し、焦点部位の詳細な同定を行います。

  • 超高磁場MRI 撮像法(3テスラMRI)(放射線診断科、脳機能総合研究センター)

皮質形成異常のような微細な脳構築異常の検出が可能です。
またトラクトグラフィー撮像による大脳白質ネットワークの画像化が可能となっています。

  • 機能的MRI(functional MRI)(脳機能総合研究センター)

神経活動に伴う脳内の血流変化をとらえることで、手・足の運動機能、言語機能などを非侵襲的に脳機能マッピングを行っています。臨床研究検査としててんかん外科手術前に臨床応用しています。

  • 脳波・機能的MRI 同時計測法(脳機能総合研究センター)

脳波上のてんかん性放電に同期した脳賦活部位を同定することでてんかん外科術前評価(焦点検索)に研究検査として臨床応用を行っています。他にてんかん性脳症・全般てんかんの発症機構の解明にも研究的に用いています。

  • 頭蓋内電極留置(脳神経外科、神経内科)

上述の通り、てんかん外科症例において発作焦点が機能を有する脳の部位の場合に、頭蓋骨の中に電極を埋め込み、発作の詳細な焦点同定と脳機能マッピングを行い最終的な切除部位を計画します。また倫理委員会にて承認された研究検査(高次脳機能マッピング法など)を臨床応用し、てんかん外科手術成績の向上を目指しています。

  • 神経心理検査(神経内科、リハビリテーション部)

てんかん患者さんの記憶・言語といった高次脳機能の検査として、神経心理検査による評価を行っております
(WAIS-III、WMS-R、WAB 検査)。てんかん外科症例では術後のフォローを行うことで高次脳機能の経時変化をみることが可能です。また側頭葉てんかん患者さんを中心に、意味記憶や漢字の読み書きに関連した検査も追加で行っております。

  • 髄液・血液検査(神経内科)

近年は、自己免疫性機序によるてんかん発作が注目されております(自己免疫性てんかん)。診断においては上述の各種検査と共に、脳脊髄液の検査を行い、髄液中の炎症所見の有無を確認します。また髄液・採血検査から各種抗体検査を行い、自己免疫性てんかんの診断・治療方針決定に役立てております。

5)てんかんの新しい治療法の開発と推進

 Interventional neurophysiology(臨床神経生理学的手法を駆使したてんかん発作治療法):脳内電気刺激による発作抑制だけでなく、患者自身の脳活動の興奮性(脳波変動)を自己制御して発作を抑制する方法が注目されて、既に本施設でも良好な結果を挙げています(脳波を対象としたバイオフィードバック療法)。これらの新手法の臨床応用を推進していきます。
抗てんかん薬の臨床試験の推進:有望な新規薬剤の治験を積極的にかつ効率よく進めております。

6)運動異常症の診断と治療

 神経内科の外来にて、上記のてんかん診療のみならず、運動異常症についても、診療を行っております。振戦(ふるえ)、ミオクローヌス、ジストニアといった不随意運動・運動異常についての、適切な診断、原因検索、それに対しての適切な治療法の選択を、専門的な視点から実践してきました。運動異常症の病態については多岐にわたり、一部は未解明の領域を含んでおり、これらについては本講座・神経内科脳病態生理学講座・脳機能総合研究センターとともに共同で病態解明および治療法開発の研究を行っています。

7)脳死判定シミュレーションの実施

 1997年に臓器移植法が定められて以来、当院では定期的に「脳死判定シミュレーション」を、神経内科(脳死判定委員会委員長)、当講座(同副委員長)、脳外科、初期診療・救急科、小児科が共同で施行してきました。臓器提供者発生から臓器摘出までの対応について、当院の脳死判定医で情報共有できる実践的なシミュレーションを行っております。